コト

第19回 トダピースな交流会『トークセッション ゲスト:ラムトリックカンパニー 竹田豊さん』

1983年、埼玉県川口市で創業して以来、オリジナル・ブランド「Sonic」のギター&ベースを製作・販売や、チューンナップなどを手がけてきたラムトリックカンパニー。

代表取締役の竹田豊さんは、『エレクトリック・ギター・メカニズム』(リットーミュージック刊)の著者でもあり、国内ギターリペア業界のレジェンドとも言える存在。本著はギタービルダーやリペアマンのバイブルとして愛読され続け、大ベストセラーになっています。

トダピースとの出会いは、新社屋の建て替えに伴い、一時的に竹田さんのお住まいのある戸田市で営業することになったことから。私たちがその際の物件を取り扱ったことでご縁がつながり、今回のトークセッションが実現しました。

会社設立や著書執筆の経緯、「Sonic」のことはもちろん、竹田さんの愛車や初心者向けのギター選びのコツまで、幅広くお話を聞かせていただきました。

竹田 豊

さいたま市(旧浦和市)生まれ、戸田市在住。 1983年、川口市に「ラムトリックカンパニー」を設立。 「Sonic」ブランドにてギター&ベースを製作・販売。 いつもアーティストのそばにより添う楽器であり続けられるよう、クオリティと信頼性を重視し、組み込み工程に徹底的な手間をかけた製作活動を続けている。 著書『エレクトリック・ギター・メカニズム』(リットーミュージック刊)

演奏者を諦めても、音楽に関わる仕事をしたかった

立教大学をご卒業されてますが、音楽の道に進もうという気持ちは割と早い段階からあったんですか?

ギターを弾き始めたのは高校になってからなんですよ。プロでやってるような連中に比べたら全然遅いですね。それでもバンドを組んで、プロとしてやっていくにはどうしたらいいか真剣に話し合ったりもしていました。だけど付き合いが広がっていくと、自分では全然敵わないほど上手いやつがいっぱいいるわけですよ(笑)。

これはちょっと無理だなと思って、音楽を演奏して食べていく道は諦めました。でも、やっぱり音楽が好きで、ギターも弾いてきたし、漠然と音楽に関わる仕事はしたいと思ってました。卒業後は楽器の問屋に勤めていたんですけど、朝混んでる電車に乗るのが嫌というのが一つと、会社で自分より偉い人間がいるのも嫌で。

もうその頃から独立志向なんですね。

経営者としての素質はないとは思うけど、嫌なものを排除していくとそれしかなかった……みたいな、消極的な、ネガティブな感じの流れでした。

この道じゃなかったら何をやっていたと思いますか?

一応レコード会社は何社か受けていたので、そこで受かっていたらその会社に入っていただろうし、そうなっていたら今は何やってるかわかんないですね。レコード会社はその後斜陽産業になっちゃいましたから、今思えば落ちてよかったのかな。(笑)

会社を一緒に立ち上げた方たちは、元々はなにをされていたのでしょうか?

音楽業界というより楽器業界のやつらです。今も楽器業界で活躍してます。

『エレクトリック・ギター・メカニズム』誕生の経緯

竹田さんはオリジナル・ブランド「Sonic」のギターやベースの製作もされていて、やっぱり職人ですよね。

仕事していく中で苦労はもちろんありますけど、天才なんですよ、俺(笑)。答えは全部自分の中にあるので、なんとかなっちゃいますよね。

天才いただきました(笑)。竹田さんの本『エレクトリック・ギター・メカニズム』が出るまで、その世界にはバイブル的な本はなかったんですか?

ここまで幅広く全てのことを網羅した本っていうのはなかったですね。これもだいぶ修理寄りだけど、修理に特化した本とかはありました。だけど、日本人が書いているのに文章として読みづらいんですよ。文章力って技術力と必ずしも比例しないじゃないですか。でも俺はその二つが比例してるから天才なんだなと思うんです。(笑)

ギター業界には素晴らしい技術を持った人がたくさんいます。ただ、文章が書ける人って本当にいなくて、そういう意味で出版社にとっても便利だったんだと思います。

本を出版された経緯は、編集者さんとの出会いですか?

ギター・マガジン』という雑誌の中には広告がいっぱい入っていて、うちも元々は広告の付き合いだったわけです。その中で、その当時、広告担当の上のほうの人と仲良くなれたので、「なんか俺に書かせてよ」みたいなことを言いました。

自分から言ったんですね?

半ば冗談みたいな形ですけど(笑)。その頃、「OK、OK」と書いたら好評を得たわけです。

天才が開花したわけですね。

そうですね(笑)

出版社としても、「こいつ使えそう」ってなったんじゃないですかね。

メインテナンスを手がける中で感じること

どこのメーカーのギターであってもメインテナンスされるんですよね?

もちろんやります。ただ、元のつくりが悪いやつは見るとがっかりしますけどね。楽器のこわい所は、どんなにつくりが悪くても音が良ければOKなところ。メーカーによっては、物凄い「アタリ」もあれば「ハズレ」もある。でも「アタリ」が名器として世に残っていき、そのメーカーの評価になっていくんですよ。ビンテージとして残っているギターはこの「アタリ」が残ってるだけなんですよね。

ギターは工業製品だと思っていたので、80点くらいの商品がガシャガシャと出てくるものだと思ってました。

そうですね。実際、日本製はそういう傾向があります。

海外だと?

いろんな人間が関わっているからということもあるでしょうけど、仕事にムラがある。だから「アタリ」も生まれるわけですが、製品としては感心できねえな……とは思います。

一番の愛好家は小川銀次さん

Sonicの愛好家の中で一番印象に残っている方はどなたですか?

この質問どうしようかと思いました。思い入れを持って買ってくださる方はみなさん大切にしたいお客様なんだけど、こういう質問であれば、俺が大学一年生の時からずっと付き合いがあって、プロのギタリストになった小川銀次ですかね。うちのギターをトータル……少なく見積もっても10本はつくってると思います。もういなくなっちゃいましたけど。

亡くなられたんですね。

そうなんです。4年か5年前かな。やっぱりうちのヘビーユーザーとしてはトップだと思うから、この質問の答えは小川銀次しかいないなと思いました。

彼の一番メジャーな仕事はRCサクセションですかね。大学一年生のある日、秋葉原にあった楽器屋さんにふらっと遊びに行ったら、めちゃくちゃギター上手い人が弾いてるんですよ。その時にいろいろ話をして仲良くなったんですけど、当時は今みたいに携帯番号交換しようとかじゃないから、その日はそのまま別れたんですよ。「すげえギタリストがいるもんだなあ」と思いました。

それから数ヶ月してから、今で言うライブをするってことで何組かバンドが集められて、俺のやってたバンドも呼ばれて、打ち合わせするからって池袋に行ったら、そいつがいたんですよ。「あの時のやつだ!」って。そこからの付き合いです。

小川さんも竹田さんのことを覚えていたんですね。

そうですね。

その後『エレクトリック・ギター・メカニズム』の最初の版を出すって話が決まって一生懸命書かなきゃって時に、小川のライブかツアーの地方公演に一緒に行って、ホテルの部屋で、「俺、今度本を書くんだ」という話をしました。当時、やつは俺より圧倒的に活躍してたんだけど、音楽活動をしていく中で「どっちが早く有名になるか勝負だな」みたいなことを語り合いました。

Sonicをもっと多くの人に知ってもらうために

新社屋をつくる中で何か新しい戦略を打たれたりはされますか?

そのためにマーケティングマネージャーを雇いました。中止になった楽器フェアに変わって「楽器フェアオンライン」というイベントがあったのですが、そのコンテンツ制作すべてを任せました。

でも楽器フェアは業界自体のプロモーションもいまいちだし、そこにコンテンツを入れていく我々も力不足だしで、なかなか派手にならないんですよね。

それは知名度のあるメーカーが強すぎるということですか?

そうなんですよ。家電はある程度有名なメーカーの商品を買っていれば、実際安心だと思いますが、ギターに関しては「有名ブランドのものを買ったら安心」というのは大間違いなんですよ。それがわかっていなくてみんな買っちゃう。

それは販売店側の問題ですか?

やっぱりメーカーの力不足でしょうね。

今回の新社屋では今までなかったショールームをつくって、楽器の在庫を並べてお客さんに見に来てもらおうと思ってます。でもそのショールームがあるだけではだめだから、そのことをプロモーションしていかないといけない。

GENは知ってますか?

いえ、知らないです。

楽器エンジンオブニッポン」という、要するに我々のように小規模に楽器をつくっている、クラフトギターメーカーがゆるく集まって、楽器のイベントに一つの集まりとして参加するということをしている団体があるんです。

クラフトギターメーカー自体は日本全国でどれくらいあるんですか?

GENも出たり入ったりがあるのですが、大体20〜30くらいですかね。もっとあるんだろうけど、群れるのを嫌がるやつもいますし……でも100にも満たないと思いますよ。そのGENに加盟しているメーカーでも、中には一人でやってるところもあって、そういうところの楽器をうちのショールームに置いて、GENのメンバーの楽器を弾きたい、触りたいっていう人がいたらウチに来ればOKということにしたくて。

これはマーケティングマネージャーの考えた計画の一つです。

愛車は黄色いスポーツカー

物件をご案内した際、竹田さんがギターメーカーの社長で、背の高い大きなクルマと黄色いスポーツカーに乗っているとお聞きした時からもうファンキーなイメージでした。

ファンキーでありたいとは思ってますよ。(笑)

かなりマニアックじゃないですか?あのMR-S(クルマ)は。(笑)

そうですね。

MR-Sに辿り着いた経緯をお聞きしたいです。

親父もクルマが好きでした。親父の影響で早くクルマに乗りたくて、18歳になってすぐに教習所に通って免許を取りました。最初に自分のクルマとして手に入れたのが初代セリカ。その後に買ったのがハイラックスサーフ。オフロード仕様にリフトアップして乗っていました。オフロードにずっとハマっていたんですよ。でもエンジンが非力で、ランドクルーザーに買い換えました。最初はディーゼル車に乗っていたんですが、ディーゼル車規制ができてからはガソリンのランドクルーザーに乗ってます。

2007年にR-Sを買った時は、前に乗ってたセリカの流れでスポーティーに走れるものを探してて、トヨタのディーラーに中古のMR-Sがあったので買いました。

オープンカーというのも、今まで考えたことがなかったけどいいじゃんって気がして。

私(河邉)もオープンカーに乗ってましたけど、結構過酷じゃないですか?乗れる時期が限られるじゃないですか。暑いときは乗れないし?

暑いのは全然平気なんで、真夏でも基本オープンですよ。

もう修行じゃないですか。(笑) 真夏のオープンカーって、すごいストイックなんだろうなって。

そういうのはありますよね。ある意味やせ我慢ではあるんです(笑)。

一番新しい製品が一番良い

若い頃につくった製品と今の製品、当然技術力は今のほうが上がってると思いますが、若い頃のほうが勢いがあったとか、あの頃だからつくれたということはありますか?

そういうのはないですね。結局、うちの製品で一番良いのは一番新しいやつ。自慢ぽくなっちゃってあれですけど、要はそれまでの作業の合計として製品ができあがるわけじゃないですか。作業をしながら常にもっと良い方法はないか、もっと品質を良くする方法はないか考えていて、もちろん毎回答えが出るわけじゃないけど、たまにこのほうがいいじゃん!って思いついたらどんどん取り入れていくから一番新しい製品が一番良いんです。

昔つくったやつが修理やリチューンで戻ってくるんですけど、「ああ、やっぱりこの頃の仕事はちょっとあれだな」みたいなこともあります。元々俺は勢いがあるタイプじゃないんですよ。地道にやっていく感じなので。若いからやれたこととすれば、自分より上に人がいるのが嫌だから独立しちゃえと行動したところ。今もし勤め人をしていたら、さすがに今から独立する元気はないですよ。

製品は常に今日明日送り出すものが一番良いんですね。

そうですね。昨日つくったものより今日のほうが良いとは言わないですけど、そういう気持ちでやってます。常に進化を止めないみたいな気持ちはあります。

戸田の印象は「色がない」

お住まいは戸田市ですよね?戸田市についてどういった印象がありますか?

俺は元々は浦和の人間なんです。自分でクルマを運転していなかった頃にも親父に乗っけてもらって、都内に行くのに戸田橋を渡るみたいなこともある中で、良い意味だか悪い意味だか分からないですが、すごい色がない感じがしていました。

もちろん住んでる人もいるんだけど、倉庫街のイメージもあって、あんまり住民のカラーを感じない印象があります。

それ、なんかすごいうまい表現ですね!でも実際には竹田さんみたいな天才が戸田にはいるわけですよ。(笑) でも地域性と連動していないっていうのが、そういう意味では無味無臭。

そうなんですよ。悪い意味で捉えれば個性がないことになるんだけど、良く言えば、どんな人でも受け入れる幅広さでもあるから。

実際には、一つひとつを見ていけば、例えば戸田にはスタジオパークサイド(※総合音楽スタジオ)とかあるじゃないですか。ああいうのはすごい個性だなと思います。そういうものが実際にあるのにトータルで見ると無色透明な感じがしちゃうんですよね。スタジオパークサイドはうちもお付き合いがあって、試奏用の楽器とか置いてもらったりしてます。

イベント関係の法人さんも多くいらっしゃって、音楽にまつわる業種の方にも優しい街ですよね?

音楽関係の仕事やってる人達も多いので、なにしろ戸田市の文化会館はゲネプロ(ライブの本番通りにやるリハーサル)のメッカですからね。

今の目標

今の竹田さんの目標やチャレンジしたいことは?

仕事のことでは……やっぱりギターってものすごくアナログな製品なんですよ。

そうですよね。弦を弾いて鳴らすという機能としてはそんなに進化しない。

その部分を捨てちゃうとそもそもギターじゃなくなってしまうし、それは違う。ただ、今の世の中のデジタルでやれることは取り入れていかなきゃと思うんです。

そんな中で今導入したいのは3Dプリンターとレーザーカッターです。ギター業界ってそういう点では遅れてると思うんですよ。3Dプリンターやレーザーカッター持ってる同業者ってあんまりいないんですよね。だったら今先駆けて導入するって大事なことだし、幸い会社で働いてくれてるうちの娘たちはデジタルの仕事がしたくて専門学校も出てますから、センスもある。だったらギターつくらなくても3Dプリンターだけでも仕事にできるんじゃねえのって思ってて。

今3Dプリンターでぜひ作りたいギターのパーツがあるんですよ。まだヒミツですけど(笑)。

あとはノベルティとかにも使えるし、汎用性の高い機械だからいろんなことができるんですよね。アイデア次第で何でもできると思っています。 

初心者こそ良い製品を使うべき

最後に、私のような初心者でも弾けるギター演奏のコツを教えてください!

ギターだけの話じゃないですけど、基本的に「初心者だから安いのでいいだろう」って考え方があるじゃないですか。だけど、「それは違うだろ」って思うんですよね。初心者であればあるだけ弾きやすくて良い音のする楽器を使わないと嫌になっちゃうに決まってるので、初心者こそ本当は高いもの、高ければ良いってわけじゃないですけど、ちゃんとしたものを使うべきだと思ってます。

例えば、自分が何か新しいことを始めようとした時に、いきなり高いものって買えないじゃないですか。それは話としては分かるんですけど、やっぱりその道の人間として言わせてもらえば、最初からちゃんとしたものを使ったほうが絶対上手くなるのも早いよって思いますね。

なるほど、ありがとうございます。

最近サブスクみたいなものができているんですよ。良い楽器をレンタルして弾けるんです。 気に入らなければ 買わなくていい。買いたければ払ったレンタル料を差し引いて買えるというのが始まってて、うちも関わることになりました。

昔は、今もそうだと思いますけど、楽器屋さんに行って、ちょっと触って善し悪しを見てましたよね。

絶対分かんないですよ。自分の環境である程度の期間ちゃんと弾いて、それで善し悪しが判断できるというのはすごく良いと思います。

良い時代になってきましたね。

みんな物が売れなくて困ってるじゃないですか。どうやって物を売っていくか考える中で、まず弾いてもらうということから始める。弾いてくれれば気に入ってもらえる自信もある、そうすれば結果的に買ってもらえることになるから、全然それでいいじゃんって思います。

時代ですね。我々の頃は働いて貯めて、手に入れて……

それで上手くいけばいいですけど、失敗もあるわけじゃないですか。

ギターも老朽化ってするんですか?

もちろんします。でもちゃんとメインテナンスすれば良い状態が保てるんですよ。

新品だから大丈夫みたいな考え方ってあるじゃないですか?でもギターはそうじゃないんですよ。

新品こそ手を入れて、良い状態にしなければいけないし、その良い状態を保たないといけない。そういう点では買ってからお金がかかるんです。

建物と一緒ですね?新築だから大丈夫ではなく、きちんとメインテナンスを行うことで、長く良い状態を保つことが出来るんですよね?

長い時間お付き合い頂き、ありがとうございました。